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水戸地方裁判所 昭和27年(行)37号・昭27年(行)33号・昭27年(行)34号 判決

原告 軽部舒 外二名

被告 筑波町選挙管理委員会

一、主  文

被告が別紙第一目録記載の六十四名の署名のうち10草間とよ12杉山主16石島ふで26石川嘉助28吉原みち30塚田春松34瀬尾栄造37星野隆太38常盤軍治57谷貝とく以外の五十四名の署名及び第二目録記載の2桜田由之助3細貝きよの署名につき、昭和二十七年十月十三日附で無効と修正決定した処分並びに第一目録記載の30塚田春松の署名につき、右同日附で塚田春松の同年九月三十日附異議申立を正当でないと決定した処分は、いずれもこれを取り消す。

原告軽部舒同岡田正義(第三七号事件)のその余の請求及び原告軽部舒の請求(第三四号事件)中第二目録記載の4細貝秋次郎の署名に関する分はいずれもこれを棄却する。

被告が別紙第三目録記載の十六名の署名のうち4酒寄たけ6竹井節子12田村光16石田なを以外の十二名の署名につき同年十月十三日附で原告吉原哲郎の異議申立を正当でないと決定した処分はこれを取り消す。

原告吉原哲郎の本訴請求のうち別紙第四、第五目録記載の署名に関する部分については訴を却下し、別紙第三目録記載の4 6 12 16の署名に関する部分については請求を棄却する。

訴訟費用のうち原告軽部舒と被告との間に生じた分(第三四号事件)はこれを十分し、その一を原告の負担その余を被告の負担とし、原告軽部舒同岡田正美と被告との間に生じた分(第三七号事件)はこれを五分しその一を右原告両名の負担、その余は被告の負担とし、原告吉原哲郎と被告との間に生じた分(第三三号事件)はこれを二分し、その一を同原告の負担、その余を被告の負担とする。

第三三号事件につき参加人と原告との間に生じた分はこれを二分し、その一を原告吉原哲郎の負担とし、その余を参加人の負担とする。

二、事  実

第一当事者の申立

一、第三四、第三七号事件について

(一)請求の趣旨 被告が別紙第一目録(30塚田春松を除く)第二目録記載の署名につき昭和二十七年十月十三日附で無効と修正決定した処分(うち第三四号事件の分は第一目録23藤木静枝24若林五郎54竹井ぶん、第二目録2桜井由之助3細貝きよ4細貝秋次郎の署名に関する処分)及び同日附で第一目録記載の30塚田春松の署名につき同年九月三十日附同人の異議申立を正当でないと決定した処分(第三四号事件関係)を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(二)答弁の趣旨 原告の請求を棄却する。

二、第三三号事件について

(一)請求の趣旨 被告が別紙目録第三、第四、第五目録記載の署名につき昭和二十七年十月十三日附で原告吉原哲郎の異議申立を正当でないと決定した処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(二)答弁の趣旨 原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

その一、第三四、第三七号事件について

一、請求原因

(一)原告軽部舒外一名は茨城県筑波郡筑波町長解職請求代表者として昭和二十七年九月三日、法定必要数(筑波町における有権者総数二千三百五十三名の三分の一即ち七百八十五名)以上に当る千十七名の者の連署ある同町長解職請求者署名簿を被告委員会に提出してこれに署名押印したものが同町の選挙人名簿に記載されていることの証明を求めたところ、被告委員会は同月二十三日審査を終了し別紙第一、第二目録記載の署名(但し塚田春松の署名を除く)を含む九百十一名の署名を有効とし、右塚田春松を含む百六名を無効とする旨決定し、同日縦覧期間を同月二十四日から同月三十日迄と定めて告示した。ところが別紙第二目録記載の署名については筑波町長吉原哲郎から異議の申立があり、被告委員会は更に審査の上同年十月十三日の委員会で右署名を無効と修正決定する旨議決し、又同日別紙第一目録記載の署名につき同年九月二十五日から同月三十日迄の間に署名者本人名義の異議申立書が提出されたので、被告委員会において更に審査の上、塚田春松の署名についてはもとの決定を維持して同人の異議申立を正当でないと決定し、その余の署名については異議申立を正当であるとし、その署名を無効と修正決定する旨議決し、同年十月十四日その旨告示し、更に同日同人等に通知した。

(二)然し乍ら右の決定は次の理由により違法である。

(1)別紙第一目録記載の署名については署名者名義の異議申立書なるものが被告委員会に提出されているが、それは事実上は署名取消の申出をする旨の書面に外ならない。けれども署名者本人は署名を取り消す意思もなく又取り消した事実もない。即ち被告委員会に提出された藤木静枝名義の異議申立書は同人の娘藤木仲子が静枝の不在中同人の意思にもとずかず署名取消運動者たる砂原林平が持つてきた異議申立書の用紙に藤木静枝と記載して林平に渡し、同人によつて被告委員会に提出されたものであり、静枝の関知しないところであり、又被告委員会に提出された若林五郎名義の異議申立書は同人の妻ふみが五郎の意思にもとずかずして前同様異議申立書の用紙に若林五郎の氏名を記載し捺印したものであつて、これまた五郎の全く関知しないところである。更に小森はなの異議申立書については同人の隣人が用紙を持参し「これに捺印して呉れゝば町が平和に行くから」というので只判を押してやつたにすぎない。その余の署名者本人名義の異議申立書については、筑波町長吉原哲郎のため署名取消運動に奔走していた人々から「あんなものに署名などすると警察や裁判所に呼び出されたりして大変なことになる、今のうちにこれに判を押しておけばそんなことはなくて済む」等と申され何のことか判らないまゝに異議申立書用紙に捺印したに過ぎず、署名取消の理由などは何も述べず又何も記入した事実はない。この点は異議申立書に委任状が添付してあること、取消の理由等の記載が一様に他人の記入した痕跡の顕著なことからも明瞭である。要するに署名者本人名義の異議申立書が提出されても、それは本人の関知しないものであつたり或は単なる署名取消の申出であるに過ぎず、いずれも地方自治法第七十四条の二第四項の異議申立があつたとみることができないのである。

(2)町長解職請求者署名簿の署名の取消は、地方自治法施行令第九十五条、第百十六条に明定してある通り請求代表者が署名簿を町選挙管理委員会に提出する迄に請求代表者を通じて行わるべきものである。然るに別紙第一目録記載の者の前記異議申立書による署名の取消は、請求代表者が署名簿を被告委員会に提出した昭和二十七年九月三日を既に経過した同月二十五日から同月三十日迄の間になされて居り、然も請求代表者を通ぜず直接被告委員会に対して申し出ている。このように前記異議申立書による署名の取消の申出は右の手続規定に違背し無効である。

(3)なお

(イ)竹井ぶんについては昭和二十七年九月三十日頃同人は谷貝正一と同道し、被告委員会に対し口頭をもつて前記署名取消による異議申立を取り下げる旨申し立て、その後更に再取消の異議申立書即ち署名取消を理由とする異議申立を更に取り消すという趣旨の申立書を提出した。従つて仮に最初の異議申立が有効であつたとしても、右二度目の異議申立により同人の初の異議申立は失効したに拘らず被告は右取下を認めず本人より異議申立ありとして同人の署名を無効と決定した。

(ロ)塚田春松の署名については、同人は審査期間内たる昭和二十七年九月二十三日被告委員会に対し署名取消の申立を理由とする異議申立書を提出したゝめ、被告委員会は署名者本人から署名取消の申出があつたとの理由で無効と決定した。然るに右塚田は同年九月三十日前記署名取消の申出は取り消す。当判の署名を有効とせられ度いという趣旨の異議申立書を被告委員会に提出したのであるが、被告委員会は右申立を認めず先になした審査決定(同人の署名を無効とする決定)を維持し、右九月三十日附異議申立は正当でないと決定をした。然し塚田の九月三十日附申出は署名簿の縦覧期間内であるから被告はその意思を尊重すべく、又署名を無効とすべき理由もないのであるから同人の署名を有効と修正決定すべきものである。

(ハ)広瀬よしの署名については、同人は更に異議申立書による署名取消の申立を撤回する申立をしているに拘わらず、被告は右申立を無視して署名を無効と決定した。

(4)別紙第二目録記載の五名の署名はいずれも自署であるにも拘わらず被告委員会はこれを代署であると誤認し無効と修正決定した。

以上のように別紙第一、第二目録記載の署名は凡て有効であるにも拘わらず、被告委員会は塚田春松の署名については、同人の昭和二十七年九月三十日附異議申立を容認せず、もとの決定(無効決定)を維持し又その余の署名については異議申立を正当であるとして無効と修正決定をしたのである。被告委員会の以上の処分は違法であるからこれが取消を求める。

二、答弁

(一)原告主張の(一)の事実は認める。

(二)同(二)の事実のうち

(1)(2)の点は否認する。別紙第一目録記載の署名について、被告が無効と修正する(但し塚田春松の分については無効の決定を維持する)決定をしたのは署名取消がなされたとの理由で無効と決定したものではなく、いずれも異議申立と認めその理由を申立人本人並びにその代理人について調査した結果、署名者本人が、解職請求の意思なくして署名を強要された等のために署名した者であつたことが判明したので、右署名を無効と修正決定したのである。なお一部は自署でなかつたものであり、第一第二目録記載の者の署名を無効としたのは結局において正当であつたというべきである。これを詳説すれば左の如くである。

即ち第一目録記載の者のうち10草間とよ12杉山主13酒寄かつ16石島ふで26石川嘉助28吉原みち33瀬尾よし34瀬尾栄造36星野隆太38常盤軍治50篠崎十三郎56谷貝とくの署名は自署でなかつたのであつて、これらの者の署名を無効と修正決定したのは結局正当であつたのである。

次に右以外の者については

(イ)まず署名者本人において解職請求の意思もなくして請求者署名簿に署名したものであつて錯誤に因る無効の署名である。

(ロ)仮に錯誤に因るものでなかつたとしても署名収集者の強迫による署名である。

(ハ)更に強迫によるものでなかつたとしても原告等乃至署名収集者の詐偽にもとずくものである。

即ち署名収集者が署名を収集するに方り、解職請求者署名簿の他に筑波町議会議員板倉庄一郎名義の「町政報告」と題する書面(乙第七号証の一、二)を携行し、署名簿に編綴してある解職請求書並びに右町政報告なる書面にもとずき町長の非行を云為しよつて署名者をして町長解職請求の署名をすることを決意させるに至つたものである。しかしながら、右請求書記載の請求の要旨は右板倉庄一郎作成の町政報告書に依拠して作成せられたものであり、この町政報告書なるものはその内容が板倉の町長に対する個人的感情から同人を誹謗する趣旨の捏造事実に他ならない。その後署名者は「板倉議員の町政報告について」と題する筑波町議会議員一同名義の書面(乙第八号証の一、二)によつてことの真相を把握するに至り解職請求の意思を飜えし前記のような異議申立に及んだのであるから、これらの署名はいずれも原告等の欺罔にもとずくものである。更に署名収集は請求代表者証明の申請書が被告委員会に出され、これにつき被告委員会が確認をし、その旨の告示をしてからでなければ行い得ないのである。従つて右証明申請書が提出される前に署名を得るというようなことはあり得ないはずであるのに、本件署名収集者は請求代表者の証明の申請書が提出された昭和二十七年八月二日以前既にリコール定数八百名の署名を得たと事実無根の宣伝をして町民をまどわし、「皆が署名したのだから署名してくれ」と申し向けて署名せしめたものが大部分である。この点からみても前記署名は詐偽にもとずいてなされたものというべきである。これを要するに右署名はいずれも無効であるから被告が異議申立を容認して修正決定をしたことは結局適法である。

(3)の点については竹井ぶん、塚田春松及び広瀬よしからいずれも異議申立書が二回前後して提出されたので被告委員会において直接右署名者本人に対し証言を求めて審査した結果前記のようにその署名を無効とすべき理由があつたのでこれを無効と決定したものである。

(4)の点については第二目録記載の四名のうち細貝きよの署名が自署であることは認めるが、その余の署名は署名者本人の証言の結果いずれも自署でないことを確認したので無効と修正決定したのである。

以上の通りであるから、別紙第一、第二目録記載の署名はすべて無効であり、被告が右署名を無効と決定した処分には何等違法は存しないのであるから、右処分の取消を求める原告の請求は理由がない。

三、答弁に対する原告の陳述

被告主張の(二)の事実については、別紙第一目録記載の署名者より提出された異議申立書が、実質上も署名取消の申出書でなかつたとしても、そのうち被告主張の草間とは外十名の署名が自署でないとの点、その他の者が解職請求の意思なくして署名したとの点詐偽又は強迫によつて署名したとの点はいずれも否認する。又右署名のうち杉山主、古沢すい、横山貞四郎、古沢重男、石川嘉助、浦田喜一の署名に関する異議の申立はその署名が強迫にもとずくものであることを理由とし、又瀬尾よし、瀬尾栄造の署名は代筆であることを理由としているが、杉山主、古沢すい、横山貞四郎、古沢重男、石川嘉助、浦田喜一の署名については署名者本人に無理に署名せしめたという事実はなく、杉山主方には吉原武雄、岡田仁が古沢すい、横山貞四郎方には田口定が、古沢重男、石川嘉助方には長塚台一郎が、又浦田喜一方には岡田正美がそれぞれ訪問して町長解職の要旨を説明し、その承諾を得た上で署名を受けたものであり、更に瀬尾よし方には酒寄英雄が訪ねそれぞれ本人の署名を得たものである。

又、右八名の署名を除くその余の署名に関する異議申立書に記載された理由は地方自治法第七十四条の三所定のいずれの場合にも該当しない。

以上の通りであるから別紙第一目録記載の署名は地方自治法第七十四条の三により署名を無効とすべき場合には該当しない。

その二、第三三号事件について

一、請求原因

(一)前記軽部舒外一名が請求代表者となつて昭和二十七年九月三日茨城県筑波郡筑波町長解職請求者署名簿を被告委員会に提出し、これに署名押印している者が同町の選挙人名簿に記載されていることの証明を求めたのに対し、被告委員会は審査の結果別紙第三、第四、第五目録記載の署名及びその他の署名を有効と決定し同署名簿の縦覧期間を昭和二十七年九月二十四日から同月三十日迄と定めて告示した。そこで同町長である原告は別紙第三、第四、第五目録記載の署名その他につき自署でないとして右縦覧期間内に被告に異議を申し立てたところ、被告は右申立のうち別紙第三、第四、第五目録記載の署名については同年十月十三日の委員会で申立を正当でないと決定する旨議決し、翌十四日その旨告示し且つ原告吉原哲郎に対しその旨通知した。

(二)然し乍ら別紙第三、第四、第五目録記載の署名はいずれも自署ではないから無効であるにも拘らず、被告はこれを有効と判断し原告の異議申立を正当でないと決定したのであつて、前記処分は違法である。

よつて右処分の取消を求める。

二、被告並びに参加人の本案前の抗弁及び本案に関する答弁

(一)参加人の主張

原告の本件訴のうち別紙第四、第五目録記載の署名に関する部分は、地方自治法第八十条第四項、第七十四条の二第八項所定の出訴期間経過後に提起されたもので不適法である。仮に適法であつたとしても、右第五目録の署名に関しこれを自署にあらざるが故に無効な署名である旨の原告の主張は準備手続終結後になされたものであり、著しく訴訟を遅延せしめるのみならず、準備手続において提出しなかつたのは原告の重大な過失によるものであるから許さるべきではない。

(二)被告の主張

原告主張の(一)の事実は認める。

同(二)の事実のうち14桜井林蔵15桜井ゆきの署名が自署でないことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠方法<省略>

三、理  由

〔その一〕第三四号、第三七号事件について

原告主張の(一)の事実については当事者間に争がない。そこで別紙第一第二目録記載の署名につき被告が昭和二十七年十月十三日附でなした無効決定につき原告の主張する違法原因につき順を逐うて判断する。

一、別紙第一目録記載の署名のうち酒寄かつ、瀬尾よし、藤木静枝、若林五郎の署名については地方自治法第七十四条の二第四項所定の異議申立がなされたという点についてはこれを認めるに足る資料が存しない。即ち

(一)酒寄かつについては成立に争のない乙第一号証並びに弁論の全趣旨を綜合すると、同人名義の異議申立書と題する書面(乙第三号証の十三の二)が被告委員会に提出されていることは認められるけれども、右異議申立名義人かつの署名捺印はすべて同人の夫徳太郎がかつに無断でなしたものであつて、かつは全然関知しなかつたことが証人酒寄かつ、吉原はるの各証言に徴し明白であるから前段の事実は酒寄かつが異議申立をしたことを認定する資料とはなり得ず、他に右事実を認定し得る証拠はない。

(二)瀬尾よしについては、前記乙第一号証並びに弁論の全趣旨を綜合すると、瀬尾よし名義の異議申立書と題する書面(乙第三号証の三十一の二)が被告委員会に提出されていることは認められるが、該書面は同人の夫が同人に無断で作成した上、訴外軽部健四郎に託して被告委員会に提出したものであることが証人瀬尾よしの証言により認められるから、(証人軽部健四郎の証言中これとてい触する部分は措信しない。)瀬尾よし名義の前記書面が被告に提出されたからといつて同人の異議申立があつたと認定するわけにはいかず、他にこの事実を認定し得べき証拠はない。

(三)藤木静枝についても、前記乙第一号証並びに弁論の全趣旨を綜合すると、同人名義の異議申立書と題する書面(乙第三号証の二十三の二)が被告委員会に提出されていることが認められるけれども、他方証人藤木仲子、砂原林平の各証言を綜合すると、静枝の不在中訴外砂原林平が持参した異議申立書用紙に静枝の娘仲子が藤木静枝に無断でその氏名を代署の上捺印して林平に渡し、これが前記静枝の異議申立書として被告委員会に提出されるに至つたことが認められるから、前段の事実は藤木静枝が異議申立をしたことを認める資料として充分でないし、他にこの事実を認めるに足る証拠はない。

(四)若林五郎について

前記乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば若林五郎名義の異議申立書と題する書面(乙第三号証の二十四の二)が被告委員会に提出されていることが認められるが、証人若林ふみ、砂原林平の各証言を綜合すると、五郎の不在中同人の妻ふみが五郎に無断で砂原林平の持参した異議申立書用紙に若林五郎と代署し同書面が林平により五郎の異議申立書として被告委員会に提出せられたことが認められるから、右書面が被告に提出されても五郎の異議申立があつたことにはならないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると前記四名の署名については異議申立がなかつたことに帰するわけである。

ところで地方自治法第七十四条の二第五、第六項の規定に同法施行規則第十二条、第九条署名審査録様式を参酌して考えると、市町村選挙管理委員会が地方自治法第七十四条の二の規定により直接請求の署名の効力につき審査の上決定しこれを証明した以上は、その後その証明を修正し得るのは、関係人より異議の申立があつた場合に限るので、関係人より異議の申立がない以上委員会は先にした署名の効力に関する証明を職権で修正することは許されないものと解すべきであるから、前記四つの署名について適法な異議の申立がなかつたこと前認定の通りである以上、被告委員会は右署名の効力について修正決定をなし得ないものといわなければならない。さればこれらの署名に関し有効な異議の申立があつたことを前提として、右署名を無効と修正決定した被告委員会の処分は、この点において既に違法たるを免れないものというべきである。

二、次に冒頭所掲の署名のうち右四名の署名を除くその余の署名については成立につき争のない乙第一号証、真正に成立したものと認める同第三号証の一乃至十二、十四乃至二十二、二十五乃至三十、三十二乃至六十の各二、同号証の六十一の五、同号証の六十二の四、同第六号証の一の四、同号証の二の四、証人青葉安治、青葉栄子、瀬尾たみ、瀬尾まさ、瀬尾アサ、塚田文男、塚田はま、塚田芳一、瀬尾とき、草間とよ、塚田きの、杉山主、高橋はつ江、石島ふで、横山貞四郎、田口たつ、古沢重男、若林ふみ、石川嘉助、藤木仲子、吉原みち、瀬尾喜市、酒寄満、瀬尾栄造、野村かつ、星野隆太、鮭川なみ、渡辺準、飯村三男、大山春次、大山もと、渡辺謙一郎、渡辺勘造、浦田喜一、浅井盈、渡辺とも、石田よし、篠崎十三郎、近江芳子、篠崎むめ、神田友次、谷貝とく、竹井孝子、竹井きく、竹井みつえ、鈴木いし、堀切石蔵、堀切あき、内田鉄男、竹井ぶん、塚田春松、広瀬よし子、小森はな、酒寄理一、砂原林平、平野源次郎、吉原幸一、軽部健四郎、渡辺庫太、稲葉金吾、渡辺恒男の各証言を綜合すると前記署名者本人が署名簿の縦覧期間中である昭和二十七年九月二十五日以降同月三十日までの間に、いずれも同人等名義の異議申立書と題する書面をもつて被告に異議を申し立てたことが認められる。そしてその申立は地方自治法第七十四条の二第四項所定の異議申立であつて原告の主張するように同法施行令第百十六条、第九十五条にもとずく署名の取消でないことは前記書証並びに証言によつてこれを認めることができるので、同法条による署名取消であることを前提とする原告の立論は採用の限りでない。

三、別紙第一目録記載の署名のうち草間とよ、杉山主、石島ふで、石川嘉助、吉原みち、瀬尾栄造、星野隆太常盤軍治、篠崎十三郎、谷貝とくの署名については、同人等から縦覧期間中に書面をもつて被告に異議を申し立てたことは前記認定の通りである。ところで被告は右署名がいずれも代署であるからこれを無効と決定した本件処分は結局適法である、と主張するのでこの点について検討してみるに、

1、草間とよの署名には証人草間とよの証言並びに鑑定人武藤巳之次郎の鑑定の結果を綜合すると、右署名は草間とよの自署ではないことが認められる。(証人塚田幸市の証言中右認定と牴触する部分は措信しない。)

2、杉山主の署名については、証人杉山主の証言によれば同人の自署ではないことが認められる、証人吉原武雄の証言中右認定に抵触する部分は信用しない。

3、石島ふでの署名については証人石島ふでの証言により同人の娘石島千恵子の代署であることが認められる、証人田口定の証言中右認定に抵触する部分は信用しない。

4、石川嘉助の署名については、証人石川嘉助、長塚台一郎の各証言を綜合すると、石川嘉助の自署ではないことが認められる。

5、吉原みちの署名については、証人吉原みちの証言により同人の夫武雄が代署したものであることが認められる。証人酒寄朝秋の証言中右認定に抵触する部分は信用しない。

6、瀬尾栄造の署名については、証人瀬尾栄造の証言(但し代署者が軽部舒であるとの部分は原告本人軽部舒の供述と対比し措信しない)により同人の自署でないことが認められる。

7、星野隆太の署名については、前記鑑定人の鑑定の結果により星野隆太の自署ではないことが認められる。証人星野隆太、大山福右衛門の各証言中右認定に抵触する部分は信用しない。

8、常盤軍治の署名については証人常盤軍治、大山福右衛門の各証言並びに前記鑑定人の鑑定の結果を綜合すれば、常盤軍治の自署でないことが認められる。

9、谷貝とくの署名については、前記鑑定人の鑑定の結果によれば、名義人本人の自署ではないことが認められる。証人谷貝とくの証言中右認定に抵触する部分は信用しない。

10、篠崎十三郎の署名について被告は同人の自署でないと主張するけれども、証人篠崎十三郎の証言及び原告本人岡田正美の各供述により、同人の自署であることが認められる。右認定に反する前記鑑定人の鑑定の結果は措信しない。

故に右草間とよ、杉山主、石島ふで、石川嘉助、吉原みち、瀬尾栄造、星野隆太、常盤軍治、谷貝とくの署名につき無効と修正決定した被告委員会の処分は、その理由とするところが代署以外にあつたことは弁論の全趣旨によつて明らかではあるが、これを無効とした点において結局正当であるというべく、これに反し篠崎十三郎の署名については被告において他にその無効原因を主張立証しない以上、これが異議を容認しその署名を無効と修正したのは違法であるといわねばならない。

四、次に別紙第一目録記載の署名(但し前記一記載の酒寄かつ外三名及び三記載の草間とよ外九名を除く)については被告において署名者本人が解職請求の意思なくして署名したものであり、錯誤による署名であると主張するのに対し原告はこのような事実はないと抗争するのでこの点について考えてみる。

署名簿になされた署名を無効とすべき場合は、地方自治法第七十四条の三に規定してあり、即ち一、法令の定める成規の手続によらない署名二、何人であるかを確認し難い署名並びに三、詐偽又は強迫に基く旨の異議の申立があつた署名で選挙管理委員会が、その申立を正当と決定したものに限られるのである。原告のいう解職請求の意思がなくて署名したというのはいわば心裡留保に当るのであつて、錯誤があつたというためには、何らか他の目的のためにする署名簿と思い違いをして署名したとかいうふうに更に内心的効果意思と外部に表現された意思との間の不一致の点を明らかにしなければならないわけであるが、いずれにしても右のような心裡留保とか錯誤とかいうようなことがらは前記第七十四条の三に定めるいずれの場合にも該当しないのである。思うにこのような内心的効果意思に関すること、つまり署名者が心の中でどのように考えて署名をしたのかというようなことを一々検討し詮索することは短時日の間になすべき署名の審査としては到底不適当であり、むしろ不可能とさえもいえるのであつて、署名の審査は前記のように代署その他成規の手続によらない署名と何人であるか確認し難い署名と、署名による解職請求の意思表現が外部からの行為によつて不当に判断の自由を妨げられたゝめ瑕疵のある場合として詐偽強迫による場合をこれに加え、その旨を異議申立の理由とした場合にかぎり、その署名を無効とすることとしたものであり、一面思い違いをして署名したとか心境の変化により署名を撤回しようとする者のためには同法施行令第九十五条の規定に従い請求代表者が署名簿を選挙管理委員会に提出するまでに請求代表者を通じて署名及び印の取消をすることを認めたものと解される。右の時期を過ぎた以上右のような事由により異議申立をすることは許されないけれども、後に賛否投票が実施される場合には解職に反対の投票をすればよいのであるから、何ら不都合はないわけである。

このようなわけであるから第一目録記載の者(前掲特記の者を除く)が原告のいうように解職請求の意思がなく何らかの錯誤によつて署名したというような事実があつたにしても、そのことはその署名の効力に何らの消長をも及ぼすものでないといわねばならない。そして又解職請求者署名簿には請求の要旨等を記載した解職請求書又はその写を添付すべきことは法の命ずるところであり、本件においてその添附がなかつたとの主張も立証もないから、署名簿には全部それが添附されていたものと認むべきであつて、いやしくもこのような署名簿に署名をしている以上、特段の事情のないかぎりそれが町長解職請求者署名簿であることを認識してそれに署名する意思で署名したものと推断すべきであり、これを反対に認定すべき適切な証拠もないのであるから、いずれにしても原告の前記主張は採用の余地がないのである。

五、被告は前項掲記の署名は仮に錯誤にもとずき解職請求の意思なくしてなしたものでないとしても強迫によるものであるから無効であると主張するのに対し、原告は右署名のうち古沢すい、横山貞四郎、古沢重男、浦田喜一の署名については異議申立の理由として強迫にもとずくものである旨記載した異議申立書と題する書面が被告に提出されているが、その余の署名についてはその署名が強迫にもとずくものであることを理由とする異議申立がないばかりでなく、前記署名は凡て強迫にもとずいてなされたというような事実はないと抗争するのでこの点について審究する。

古沢すい、横山貞四郎、古沢重男、浦田喜一がそれぞれ同人等名義の書面をもつて被告に異議を申し立てたことは前認定の通りであり、右書面が前掲乙第三号証の十五、二十、二十二、四十四の各二であることは弁論の全趣旨によつて明らかである。そして右書面には異議申立の理由として署名簿の署名は無理に書かされたものであるとの旨の記載があり、これは原告の自認するように強迫にもとずいて署名したとの趣旨に解することもできる。しかしながら横山貞四郎の分については、証人横山貞四郎、同田口定の証言を照し合せ、古沢重男の分については証人古沢重男の証言自体により初めは署名簿に署名することを承諾しなかつたが、何回か頼みに来られたので署名したというだけのことで前記異議申立書の記載はその趣旨に外ならず、その間強迫行為がなされたというような事実は全然存しないことが認められるのであつて、他に同人等の署名が強迫によるものであることを認め得る何らの証拠もない。又、古沢すい、浦田喜一の分については前記乙第三号証の十五、四十四の各二(異議申立書)の記載は証人田口定、同浦田喜一の各証言と対比し、右すい、喜一の署名を求めるにつき強迫行為が行われたことを認むべき資料とはなし難く、他にこのような事実を認めるに足る証拠は一つもない。

又右四名の署名を除くその余の署名については、同人等の異議申立が強迫にもとずくことを理由としてなされたということを認めるに足る資料が存在しない。

そうすると、この署名については、地方自治法第七十四条の三第二項の規定により仮にそれが強迫にもとずくものであつたとしても、被告はこの点をとらえて異議申立を容認し、先になした審査決定を取り消すことは許されないものといわなければならない。のみならずこれらの署名を求めるについて強迫行為がなされたことを認むべき証拠も全然存しないのである。

六、そこで更に進んで前記署名は詐偽にもとずく署名であるとの被告の主張について考えるに、右署名については関係人から詐偽にもとずく旨の異議申立があつたという点についてはこれを認めるに足る証拠は存しない。だから前同様仮りに詐偽によつて署名がなされたとの事実があつたとしても、そのことのために前記署名を無効と修正することはできないものというべきである。のみならず、詐偽によつて署名がなされたというのは、強迫によつて署名がなされた場合と同じく、署名簿に署名することによつて解職請求の意思表現をするについて、その判断の自由が不当に妨害干渉された場合に属することは前にも述べた通りであるから、それは署名収集者が有権者に署名を求めるに際し、署名収集者その他の者が相手方たる有権者に欺罔行為をなし、これによつて署名する意思を決定させたという場合でなければならない。単に解職請求の理由として解職請求書に記載してある事実が虚偽の事実であるというだけでは足らず、かゝる事実の真否及びこれに基く解職請求の当否の如きは有権者の自由にして責任ある判断によつて決し得べく、又決すべきものでもあるのである。従つて解職請求の理由たる事実に関連して「詐偽による署名」がなされたというためには、署名収集者が右事実の虚偽なることを知りながら、相手方たる有権者にそれを真実と誤信させ或は既に存する誤信を強化するために、特に欺罔手段を施したという事実が存しなければならない。本件において被告の主張する板倉議員の「町政報告」なる書面及び署名簿に添附された解職請求書(又はその写)中の解職請求の要旨と題する書面に記載した事実がどの程度まで真実と合致し又は相違していたかはしばらくこれをおくとして、仮に署名収集者が署名を求めて歩くときに右町政報告書を携行したからといつてそれが欺罔行為というに当らないのは勿論であり、その他署名収集者が右解職請求の理由となつている事実が虚構のものであることを知つていたという事実、署名者に対し欺罔行為をなし同人をしてこれを真実と誤信させて署名させたという事実については、これを認めるに足る適切な証拠は一つもないのである。更に被告は請求代表者の証明申請書が被告委員会に提出された昭和二十七年八月二日以前既に八百名位の署名を得たと事実無根の宣伝をして請求代表者や署名収集者が署名者をしてその旨誤信させた上署名するに至らしめた旨主張するけれども、乙第九号証は右事実を肯認するには不十分であり、他にかゝる事実を認めるに足る証拠はない。結局被告主張のように前記署名が詐偽によつてなされたというような事実を肯認することもできないのである。

以上のようにして署名者が解職請求の意思なくして錯誤により署名したこと、強迫又は詐偽により署名したことを理由とする被告の主張はいずれも採用することができないのであつて、第一目録記載の六十四名中前記酒寄かつ外三名及び草間とよ外八名を除く五十一名の者の署名につき異議申立を正当であるとしてその署名を無効と修正した(但し塚田春松については前記九月三十日附異議申立を正当でないとした)被告委員会の処分は違法といわなければならない。

七、次に別紙第二目録記載の署名について原告は同署名はいずれも名義人本人の自署であるにも拘らず、被告は代署であると誤認した結果無効と決定した旨主張するのでこの点について検討する。

右署名のうち細貝きよの署名が自署であることは被告の自ら認めるところであり、鮭川けんの署名については、前記鑑定人の鑑定の結果並びに証人鮭川けんの証言中鮭という字の筆順に関する供述部分を綜合すると、自署ではないことが認められる(証人鮭川けん、飯村良太郎、大塚愿一の各証言並びに乙第五号証の記載中右認定に抵触する部分は信用しない)。

桜井由之助の署名については、成立に争のない乙第四号証の一の二(桜井由之助の証言書)に同人の証言として署名簿の署名は自筆でないとの趣旨の記載部分があり、証人金沢倉之助の証言(第一回)中これに照応する部分があるけれども、証人桜井由之助の証言と対比して被告主張の代署の事実を認める資料となし得ない。即ち証人桜井由之助の証言によれば、右は甲第一号証の二の署名に関するものであり、これが自署でなかつたゝめ改めて甲第二号証の二の署名(本件係争の署名)を自署したものであることが認められる。

細貝秋次郎の署名については、真正に成立したものと認める乙第四号証の二(細貝秋次郎の証言書)及び証人金沢倉之助(第一回一部)の証言によると、秋次郎の署名は同人の自署でなくその息子が代署したことが認められるのであつて、この認定をくつがえすに足る証拠はない。

従つて、鮭川けん及び細貝秋次郎の署名を自署でないとして無効と修正決定した被告委員会の処分は正当であるが、桜井由之助及び細貝きよの署名を自署でないとして無効と修正決定した処分は違法であるといわねばならない。

以上の通りであるから、原告等の本訴請求中被告が別紙第一目録記載の六十四名の署名のうち10草間とよ12杉山主16石島ふで26石川嘉助28吉原みち30塚田春松34瀬尾栄造37星野隆太38常盤軍治57谷貝とく以外の五十四名の署名及び第二目録記載の2桜井由之助3細貝きよの署名につき昭和二十七年十月十三日附で異議申立を正当としてその署名を無効と修正決定した処分並びに第一目録記載の前記塚田春松の署名につき右同日附で塚田春松の同年九月三十日附異議申立を正当でないと決定した処分の取消を求める部分は正当としてこれを認容し、右草間とよ、杉山主、石島ふで、石川嘉助、吉原みち、瀬尾栄造、星野隆太、常盤軍治、谷貝とく及び第二目録記載の鮭川けん、細貝秋次郎の署名を無効と修正決定した処分の取消を求める部分はこれを失当として棄却することゝする。

〔その二〕第三三号事件について

原告主張の(一)の事実については当事者間に争がない。

一、そこで先ず別紙第三目録記載の署名に関する原告の請求について考えるに、被告は右署名のうち桜井ゆき、桜井林蔵の各署名は自署ではないが、その余の署名は凡て自署である旨主張するのに対し、原告は右署名は凡て自署ではない旨抗争するのでこの点について検討すると、証人酒寄たけ、田村光、石田なを、竹井節子の各証言によると前記署名のうち酒寄たけの署名(丙第三号証の二に記載)田村光の署名(丙第七号証の二に記載)石田なをの署名(丙第二号証の四に記載)竹井節子の署名(丙第八号証の三に記載)はいずれも自署であることが認められる。

次に桜井ゆき、桜井林造の各署名(丙第二号証の二、三に記載)が自署でないことは被告の自認するところであり、ススキムネ、瀬尾とり、小沼さわ、鈴木なつ、セオオマス、竹井タケ、酒寄はる、田口ちよ、飯村はる、鈴木とみの各署名については本件弁論にあらわれた一切の資料によつてもこれを自署と認めるに足らない。即ち

(1)「ススキムネ」なる署名(丙第一号証の二に記載)については証人鈴木ムメは同人の自署なる旨証言するけれども、同証言により認められる同人は「ネ」なる字は記載不能である事実並びに丙第一号証の二にスズキムネと記載しあることを考え合わせると前記証言部分は信用できず、却つて右署名は代署であることが認められる。

(2)瀬尾とりの署名(丙第四号証の二に記載)についてはこれを自署と認めるに足る資料は存せず、証人瀬尾とりの証言によれば右署名は同人の嫁が代署したことが認められる。

(3)小沼さわの署名(丙第一号証の三に記載)についてはこれを自署と認めるに足る資料は存せず、証人小沼さわの証言によれば右署名は訴外小沼茂による代署であることが認められる。

(4)鈴木なつの署名(丙第五号証の二に記載)については、証人鈴木なつは同人の自署なる旨証言するが、この証言部分は次に掲げる証拠に比照し信用しない。却つて右証人の証言によれば鈴木なつは自分の氏名は片仮名でのみ記載することができ、漢字乃至平仮名を使用しては記載不能であることが認められるのに、丙第五号証の二(署名簿の署名欄)には「鈴木なつ」と記載してある事実を綜合すれば、前記署名は代署であることが認められる。

(5)「セオオマス」なる署名(丙第六号証の二に記載)についてはこれを自署と認めるに足る資料は存せず、証人瀬尾おますの証言によれば、右は訴外坂入芳正による代署であることが認められる。

(6)竹井タケの署名(丙第八号証の二に記載)については、証人竹井タケは同人の自署である旨証言するが、この証言部分は前記鑑定人武藤巳之次郎の鑑定の結果(竹井タケ関係部分)に比照し措信しがたく、右鑑定の結果によれば右署名は代署であることが認められる。

(7)酒寄はるの署名(丙第九号証の二に記載)については、証人酒寄はるは同人の自署なる旨証言するが、同証言部分は前記鑑定人の鑑定の結果(酒寄はる関係部分)に比照し信用しない。却つて右証拠によれば右署名は代署であることが認められる。

(8)田口ちよの署名(丙第十一号証の二に記載)については、証人田口ちよは同人の自署なる旨証言するが、同証言部分は前記鑑定人の鑑定の結果(田口ちよ関係部分)に比照し信用できない。却つて右証拠によれば、右署名は代署であることが認められる。

(9)飯村はるの署名(丙第六号証の三に記載)については、これを自署と認むべき何等の資料が存在しないのみならず、却つて証人飯村はるの証言によれば右署名は同人の夫源造による代署であることが認められる。

(10)鈴木とみなる署名(丙第五号証の三に記載)については証人鈴木とみは右署名は同人の自署なる旨証言するけれども、右証言は鑑定人武藤巳之次郎の鑑定の結果(但し鈴木とみ関係部分)に比照し信用しない。却つて右証拠によれば右署名は代署であることが認められる。

以上認定した如く第三目録記載の署名のうち、4酒寄たけ、6竹井節子、12田村光、16石田なをの署名は自署であるからこれを自署と認めて原告の異議申立を正当でないとした被告の決定には原告の主張するような違法が存しないからこれが取消を求める原告の請求は失当として棄却することゝし、又1瀬尾とり、2酒寄はる、3田口ちよ、5竹井タケ、7鈴木とみ、8鈴木なつ、9ススキムネ、10飯村はる、11セオオマス、13小沼さわ、14桜井林蔵、15桜井ゆきなる署名は代署であるからこれを自署と誤認して原告の異議申立を正当でないとした被告の決定は違法であるから、これが取消を求める原告の請求は正当として認容することとする。

二、次に別紙第四、第五目録記載の署名に関する原告の請求について考えると、先ず右第四目録記載の署名について被告のなした決定の取消を求める原告の請求は昭和二十八年一月二十九日附で提出された準備書面にもとずき、同日の準備手続期日において請求の趣旨追加申立の形式をもつて陳述されていることは本件記録に徴し明白であり、又別紙第五目録記載の署名につき被告のなした決定の取消を求める原告の請求は昭和二十八年三月三十一日附で提出された準備書面にもとずき、同年四月十四日の口頭弁論期日においてやはり請求の趣旨追加申立の形式をもつて陳述されていることも本件記録に徴し明らかなところである。ところで、署名簿の署名の効力に関し、関係人から申し立てられた異議につき選挙管理委員会がこれを正当として修正決定をし、或は正当でないと決定する処分は、いずれも各署名毎にそれぞれ別個の処分であり、これに対する不服の訴も亦各署名毎に一個の訴をなすものと考えなければならない。してみれば前記第四第五目録記載の者の署名については、準備書面の形式で又請求の趣旨拡張という形式で提出され陳述されてはいるが、いずれも各署名毎に新に訴を提起したものとして扱う外はない。ところで他方前記署名につきなされた原告の異議申立に対してこれを正当でないとした前記被告委員会の決定が昭和二十七年十月十三日委員会で議決され翌十四日その旨告示するとともに異議申立人たる原告に通知されたことは証人金沢倉之助の証言(第二回)及び成立に争のない乙第一号証によつて明らかなところであるから、右の各訴はいずれも地方自治法第七十四条の二第八項所定の出訴期間経過後に提起された不適法な訴ということになり、右訴は却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十四条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 中久喜俊世 石崎政男)

(別紙目録省略)

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